武器としての交渉思考/瀧本哲史

今回は瀧本哲史先生の一冊。

瀧本哲史さんはマッキンゼー出身のエンジェル投資家。京都大学で『起業論』などの授業を持っていて(いました?)、僕も大学時代に講義を受けていました。授業は双方向型で、学生側に意見を求めるスタイル。大教室の中で手を挙げて発言し、瀧本先生にバスバスと切られていく授業スタイルは非常に面白いものでした。

 

そもそも『交渉』の本を再読しようと思ったのは「違う価値観を持った人同士のベクトルを合わせるのは難しい」というのが最近のテーマの一つだからです。 

武器としての交渉思考 (星海社新書)

武器としての交渉思考 (星海社新書)

 

 シリーズものの第二弾ですが、話はつながっていないので興味ある方はこちらから読んでください。正直、授業よりはちょっと丸くなっているイメージですが、それでもストレートな書き方で読みやすく面白いです。

たとえ話も多くて非常に読みやすい。

 

そもそも交渉って何?

そう思った方。日常生活は交渉であふれています。子供のお小遣い交渉、企業間の商取引、国家外交。友達と遊ぶ約束をした場合だと「何時にどこに集まるのか」を決めるのも交渉になりますし、お昼になって友達が「ラーメンを食べたい」と主張し、自分は「パスタが食べたい」と思ったら、そこでも話し合って合意を結ぶ必要が出てきます。

交渉は複数の人間が話し合い、合意を結ぶことで、「現実を動かしていく」ために行う、ということを忘れないでください。

交渉にはロマンとソロバンが必要である

では「現実を動かす」交渉をするには何が大事なのでしょうか?常に覚えておくべきなのが、交渉にはロマンとソロバンがあるということです。

あくまでリアルに現実を変える交渉の最初には「今の状況を変えたい」という誰かの思い(ロマン)が必ずあります。小遣いを上げたい、起業をして時代を変えたい、etc。

それと同時にそれを実現するためのソロバンが必要になります。

分かりやすい例として。

数年前の話ですが、ある社会貢献を旗印とするNPOが、京都大学支部を作ったことがありました。そして、そのNPOには「世の中のためになることがしたい」と考える京大の学生が十数人、スタッフとして集まりました。

彼らは授業の合間に何度も会合を開き、寄付金を募るプロジェクトの計画を練り、数か月かけていろいろなイベントを仕掛けたり、さまざまな場で寄付を呼びかけました。

ところが、その結果集まった金額は、たったの5万円に過ぎなかったのです。

「半日アルバイトしてお金を持ち寄れば、これ以上の金額が集まったのでは…」ということは誰も口に出せませんでした。

NPOではロマンだけが先行していては資金が行き詰まり、メンバーのモチベーション搾取のような状態になる。逆にソロバンだけ重視のベンチャーが、目の前の短期利益だけ追い求めて「いったい自分たちは何のために起業したのか」と目的を見失うことも多くあります。

 

こうなった要因の一つには認知的不協和も存在します。

ある社会学者が2つのグループに社会奉仕活動をしてもらい、片方には報酬を払い、もう片方には無報酬で働いてもらうという実験を行いました。そして作業の終了後、「この行動には社会的な意味があったと思うか?」という質問をすると、如実に無報酬で仕事をするグループの方が「意味があった」と考えていることがわかったのです。

人は法主が与えられない仕事や命令されてやっていることに耐えられないので自分で「これは意味があるのだ」と思い込むこと精神的なバランスを取ろうとします。これが認知的不協和の解消と呼ばれる心理現象。「募金で寄付金を募る」というロマンに意味があると思い込むバイアスがかかったことで、「より多額のお金を集める」という本来の目的を阻害してしまっていたのです。

 

ようやく具体的な交渉の話

そもそも交渉じゃないコミュニケーションって何があるんでしょうか?

  • 指令:上下関係。命じられた側が従うのみ
  • ディベート:2者が討議し、結果については第三者が決める
  • 決断:自分の中でディベートを行い、より良い方に決める

指令、ディベートは容共が特殊ですね。そして最後の決断思考には限界があります。イクラ自分で意思決定をしても、多くの場合は実現のために他者の同意が必要になります。

交渉の誤解

「就活デモ」など。「俺が困るから合意しろ」「私がかわいそうだから言うこと聞いて!」という主張は認められません。交渉では自分の意見を強く主張することよりも相手の意見をいかに聞き出せるかということの方が重要。

✖:自分の立場を理解してもらう

〇:相手の立場(利害関係)を理解する

 

交渉はゼロサムゲームではない

有名なオレンジをめぐる交渉

2人の姉妹が、ひとつのオレンジをめぐって口喧嘩をしています。

「半分に分けたら?」と親が言いましたが、2人とも「ひとつ分が必要なの!」と言って譲りません。

しかし数分後、話し合いの結果、姉妹で無事に分け合うことができました。

いった何が起きたのでしょうか?

あくまで姉妹は「ひとつ分の」オレンジを主張しているので半分に切ることは政界ではありません。

正解は、「オレンジの皮と中身を分け合った」です。

よくよく話し合ってみると、姉は普通にオレンジが食べたかったのですが、妹は川でマーマレードを作りたかったのです。

この話は交渉ではよく用いられるたとえ話ですが、交渉においては「利害関係が一見、完全にぶつかっている硫黄に見える問題でも、相手と自分の利害をよく分析してみると、うまく両者のニーズを満たす答えが出てくることある」ということ。

 

自分ばかりが得するのがいいのか?

次の例が最後通牒ゲームと言われるものです。(僕は大学時代こういうのを研究してました)

見知らぬ2人、AさんとBさんが、電車の中で大富豪に声をかけられ、こんな提案を受けました。

ここに100万円がある。

2人で分け合って合意ができたら、このお金を渡そう。ただし、AさんからBさんへの金額の提示は1回だけとする。

Bさんはそれを受け取るか、受け取らないか判断できるが、自分から金額を提示することはできない。

Bさんが受け取らなかったら、2人とも一銭も得られない。

このゲームが終わった後2人は二度と接触しないこと。

 

さて、AさんはBさんにいくら渡すと提示するべきですか?

この問題を最初に聞くと結構色々な金額を答える人が出てきます。実際の正解は「Aさんは1円提示して99万9999円を受け取る」というもの。Bさんの選択肢は「1円」or「0円」なので断る理由がないというのが経済的合理性に基づいた解答。しかし実際に実験をすると3割くらいの金額を提示するかどうかで決裂か合意かがわかれるのです。どれだけ合理的でも現実の世界では圧倒的に片方が勝ちすぎるというのはあり得ません。

 

バトナ

Best Alternative to a Negotiated Agreement

相手の提案に合意する以外の選択肢で一番いいもの

営業マンが自分の昇給を望んでいるとした場合に

NG:昇給してくれとひたすら主張する

OK:他の会社からもオファーをもらっていてそちらだと〇〇円もらえるんですよ

OKパターンでは営業マンからすると「昇給してもらう」のバトナが「ほかの会社に移る」こと。

ただし会社側にもバトナがあることにも注意。この営業マンくらいのスキルの人を50万円で雇えるとすれば、営業マンの100万円昇給は不要。別の人を雇うといのが会社側のバトナ。

相手側のバトナを考えて提示してあげる

もし引越しをするとすれば、タイミングとしては何月が一番家賃交渉に有利か?

引っ越しシーズン前の11~12月は一番引っ越しが少なさそう。しかし正解は5~6月です。

もし5月に家が課されていないとそこからほぼ1年間は家賃が入ってこないので安くでも貸し出した方が良い。家主の選択肢は「安い値段で家を貸す」or「0円で1年間家を空けておく」です。

12月であれば、「安い値段で家を貸す」or「あと2か月待って高い値段で家を貸す」になります。

 ゾーパ(Zone of Possible Agreement)

合意できる範囲。2000円以上で売りたい人と2400円以下で買いたい人であれば2000~2400円がゾーパ。もしゾーパがないのであればそもそも交渉を行う意味がありません。

ゾーパの範囲の中でどれだけ勝ったかということが交渉の論点になります。

 

アンカリング

ギリシャGDPはどこの国と同じくらいでしょうか?

と聞くと、「フランスと同じくらいかな。いやもっと小さくてベルギーくらいですか?」と考えます。でも実際は神奈川県くらいです。

国と提示されることでそこに引っ張られる、これがアンカリングです。

「交渉はどこからスタートするかによって結果が全く違ってくる」という非常に大事なこと。

 

 

感想&ネクストアクション

  • 交渉って営業でも他の仕事でもどんな所にも生きるんだろうなと感じました。自分自身先月まで営業をしていたので。特に相手のニーズをひたすら聞き出すこと。交渉は自分の意見を主張することではなく、相手の情報をいかに引き出すかということだ。まさにその通りだと思います。
  • 交渉相手のバトナを考える。物事の交渉に臨むときには自分のバトナをもって望むことでコモデティ人材にならないようにしたいです。

2時間45分読了